■ 薪能「くるす桜」のあらすじ
(前場)
春も半ば過ぎ、北国から都へ上る旅の僧が郡上山田庄へさしかかると、桜の花びらが散る由緒ありげなお宮があります。
いわれを尋ねようと休んでいると、老翁が現れます。僧が宮の由来を尋ねると、老翁は妙見宮のいわれやそれを信仰した東氏の歴史を語り、杉木立にまじるくるすの桜のこと、それにまつわる和歌のことなどを話し、桜の陰に姿を消します。
(間狂言)
登場人物は、山田の庄の庄屋と庄屋の邸にわらじを脱ぐ旅の連歌師の二人。きょうも、常縁と宗祇の古今伝授をしのんできた連歌師は、庄屋から妙見宮(東氏)の来歴を聞き、桜の花散る下で二人して句を案じあいます。
(後場)
花の下で仮寝する僧の夢に、さきほどの老翁が衣冠を整えた優雅な姿で再び現れ、みずから東野州常縁であることを明かします。僧の求めに応じて
花盛り所も神の御山かな 桜に匂ふ峯の榊葉
と、そのかみ宗祇とここで付け合った連歌を詠じ、和歌の要諦を語り、いにしえの「大和舞」を舞います。
東の空が白みはじめ、花の下で夢覚めた僧の前に、常縁の姿はすでにありません。桜の花が雪のように舞い散るばかり。ただ、「植ゑ添へよ花の種、色添へよ心の花」と切実なまでに繰り返し訴えたことばが、耳に残るのでした。
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